清話会発行の雑誌、先見経済の2012年8月号より「消費税増税 税率10%が企業に与える影響とは?」の特集において取材を受け掲載されました「消費税増税」の内容を転載します。
緊急提言 税理士はこう読む!
中小企業は海外に打って出よ 未来を悲観する必要はない
日本の消費税増税は避けられない現実
6月28日、消費税増税法案が衆院で可決された。2014年4月から8%に、15年10月から10%に引き上げられる。中小企業がこの増税分を価格に転嫁できなければ、深刻な影響を与えることになる。
もともと消費税はフランス財務省の官僚が考案した間接税の一種で、1954年に世界で初めて導入された。日本では89年4月に商品やサービスの付加価値に課税するものとして税率3%でスタート。97年4月には5%に引き上げられたが、その直前に駆け込み需要があり、6月までは景気が十時後退するも、7月以降は導入前の水準に戻っている。これに付随して、98年ごろから法人税や所得税の減税措置が取られた。99年に「消費税の目的は福祉」との位置づけが明確になったが、社会保障・税一体改革はより広義の社会保障を想定したものだ。
また他の税収とは違う消費税の特徴として、新規発生滞納税額の約半分を占めていることが挙げられる。2010年度は6836億円のうち3398億円が消費税である(財務省調べ)。これも中小企業の多くが消費税分を価格転嫁できない、つまり発生した損金分を価格に上乗せできないことが大きい。
消費税増税に関して、IMFは日本の財政状況を踏まえ、「15年までには15%まで引き上げることが望ましい」としている。さらに経済評論家は「デフレ脱却が先で、名目利益が3%から4%に上がった時点で消費税を上げるのがベスト」という。増税が避けられない以上、私も引き上げには賛成だが、問題はその時期である。加えて、個人や低所得者に対しては給付型の税額控除が検討されているが、中小企業に対しては検討委員会設置が予定されている他は何も決まっていない点も悩ましい。
ここで他国の消費税と食料品の税率を見比べてみたい。フランスの消費税は19.6%だが、食料品は5.5%である。ドイツは消費税19%、食料品7%。イギリスは消費税20%、食料品は非課税。成長著しい中国は消費税17%、食料品13%。いずれも食料品の税率が低いのは、低所得者の負担を減らすためだ。
さらに消費税が国税収入に占める割合も、日本はフランスやイギリス、ドイツなどと比べて低く、ここでも税率を引き上げるべきとの結論に至る。これらの国では景気後退によって期間限定で消費税を引き下げる法案があり、すでに効果は出始めている。日本も増税とともに、景気動向によって減税を行うことも考えておかなければならない。
中小企業は今こそ海外取引を始める好機
では消費税が増税されたときに、中小企業が取るべき有効な手段とは何か。
例えば輸出を行、大手企業には「輸出戻し税」という制度があり、増税で痛みを伴うどころか、逆に還付金が収入増につながる。大企業などはここで一定の利益を上げており、経団連が増税に反対せずに賛成する立場にいるのもこのためだ。一方、輸出をしない中小企業の多くはこの制度を知らないのではないか。最もつらいのは価格転嫁できない下請け企業である。
そこで中小企業は大企業を真似して、資源の少ないタイやベトナムに製品を輸出し、現地で販売すればいい。もちろんそう簡単に海外取引を始めることはできないので、単独で無理なら複数の企業で協力して海外拠点を立ち上げることを考える。増税でメリットを出すには、輸出戻し税の恩恵を受けられる海外取引が有効だ。浜松市や前橋市など海外進出をあっせんしている地方自治体もある。
別のビジネスモデルの例では、IT企業が海外で情報配信サービスを行い、日本でダウンロードされた場合は非課税となる。これは消費税の盲点を突いたやり方。ヘいろいろなビジネスモデルがあるので、中小企業は未来を悲観することはない。むしろ新しい事業を始めるチャンスだ。
現代は大企業も競合企業との提携を強化し事業を行っている。そうした時代の趨勢を見極めることなく、守りに入った中小企業は弱体化していくのみだ。この価値観の転換が必要である。
個人向けだけでなく企業の優遇措置強化を
私が日本政府に要望したいのは、諸外国の消費税関連施策の良いところを積極的に取り入れることだ。
例えば中小企業が海外でビジネスモデルを構築したら、期限を決めて助成金などを出す。ばら撒きはやめ、中小企業を助けて育てていく仕組みがあれば、消費税増税もより受け入れられやすくなるはずだ。
消費税の税率は今後17%までは上がるだろう。消費税はあくまでも財源確保を目的としているが、同時にデフレ脱却、また官僚機関のスリム化を図らなければ何も変わらない。野田総理や厚労省は財務省に踊らされており、なぜ消費税をこの時期に上げる必要があるのか、なぜ一体改革法案なのか分かりやすく数字で説明すべきだ。総理の思いが伝わってこない。今回も消費税増税以外の議案は先送りされている。リーダーシップを取れる国会議員が現れて欲しい。
いずれにしても、今の日本は所得税、消費税、相続税を上げる社会システムがあり、個人が手元にお金を残していても税徴収されてしまう。そこでお金を積極的に使い、世の中のお金の循環を活発化することで、企業も潤い発展するのだ。
同時に、企業に対する優遇措置として、法人税を下げるなどの税制システムをつくる。消費税、所得税、法人税を3本柱とした中小企業が有利となる施策が必要だ。例えば大企業の利益を中小企業や下請け企業に分け合う仕組みづくりや、法人税と同様に消費税も利益に連動させて下げる、分割消費税の支払期日を延ばす、納められない分は減税するなど、国がやれることはたくさんある。
その財源として、高齢者の年金を減らすことも考える。社会保障・税一体改革法案は高齢者に手厚い優遇措置を取るものだが、その場しのぎの政策では、今の若い人たちが将来高齢者になったときに何の思恵も受けられない。輸出戻し税の大企業への還付金を減額する手もある。
繰り返しになるが、中小企業は価格転嫁できるかが生き残りのカギとなる。価格転嫁が難しい立場なら、しなくても問題のない財務体質をつくる。この点を踏まえた事業計画をきちんと策定し動いている企業は、たとえ消費税が20%になったとしても必ず生き残れるはずだ。
出典:先見経済Aug. 2012