清話会セミナー’13年07月:講演要旨①

【講演名】「生前贈与」から採る賢い相続税対策

2013年7月に清話会にておこないました講演の要旨をまとめました。

生前贈与から考える相続税テクニック

構成:今野靖人(清話会)

改正で4割減となる相続税の基礎控除額

今年3月29日に税制改正大綱が発表され、相続税と贈与税の内容が大きく変わることになった。その改正のほとんどは平成27年1月1日から施行される。現状のやり方では通用しなくなる部分も多いので、改正の中身をしっかりと把握して節税対策に取り組んでいただきたい。

相続税の改正のポイントは3つ。

1つは基礎控除額の引き下げ。現行の基礎控除は5000万円+1000万円×法定相続人の数だが、改正後は3000万円+600万円×法定相続人の数となる。現状で相続人1人の場合6000万円まで認められていたものが3600万円、2人で7000万円までだったのが4200万円、3人で8000万円までだったのが4800万円と、控除額が4割もカットされることになる。この結果、現在は亡くなられた人の約4%でしかない課税対象者が約6%に増えると予測され、特に不動産価格の高い首都圏では14%にまで増加すると言われている。

2つ目は相続税の税率構造の改正。これまで6段階だった税率構造が8段階に細分化され、相続額2億円超3億円以下は現行の40%から45%に、3億円超6億円以下は現行の50%からは60%に引き上げられる。

3つ目は、小規模宅地等の相続税の課税価格の計算の特例の改正。こちらは減税措置で、原則として同居していた親が住んでいた宅地の評価額が最大80%減じられ、この措置の対象面積は240m2から330m2に拡大される。現行では親が老人ホームに入居していると適用されないが、親の住まいを貸家としていなければ特例が適用されるようになる。また2世帯住宅で親子の住居の入口が別になっていると同居とは見なされなかったが、今後はその場合も同居として扱われて特例が受けられるようになる。

さらに、事業用の宅地と居住用の宅地がともに存在する場合の対象面積も拡大され、これらの措置を利用すれば大きな節税対策が可能となる。

他に減税措置として未成年者控除・障害者控除の改正があり、現行却歳までの1年につき6万円までの控除額が改正後は10万円に、障害者控除は現行85歳までの1年につき6万円(特別障害者については12万円)の控除が改正後は10万円(特別障害者は20万円)に引き上げられる。

一方の贈与税改正の大きなポイントは、直系尊属から20歳以上の者に贈与する場合とそれ以外の場合とで、税率区分が分けられることだ。例えば孫への贈与でない場合、現行では1000万円超は一律で税率50%・控除額225万円だが、1000万円超1500万円以下45%・同175万円、1500万円超3000万円以下50%・同250万円、3000万円超55%と累進構造になり、贈与額が大きいほど税率も高くなる。

改正後の相続税率は6億円超で55%なのに、贈与税は3000万円を超えると55%となる。このように贈与税の税率は高く設定されているが、改正後の新しい税率区分を上手に活用すれば節税することは可能である。

例えば2億3000万円の財産がある人に、3人の子と7人の孫がいるとする。贈与対策をしない場合の相続は、2億3000万円から基礎控除の3000万円+1800万円(600万円×相続人3人)を控除した1億8200万円が課税対象となり、この金額に対する改正後の税率は40%だから、5580万円の相続税を支払うことになる。

このケースで生前贈与を活用し、相続税の40%よりも低い30%の税率が適用される700万円を孫7人に贈与することにしてみよう。

暦年贈与の制度では年110万円の基礎控除額があるので、1人当たり590万円に対して30%、7人分で合計784万円の贈与税が課されることになる。2億3000万円から7人に700万円ずつ贈与した残りは1億8100万円。基礎控除の4800万円を引くと1億3300万円。これに対する相続税が3620万円で、784万円と3620万円を足すと4404万円。贈与しない場合の5580万円から4404万円を引くと1176万円で、これだけの節税になるのだ。この事例からもよく分かるように、今後は相続税と贈与税の税率を十分に吟味し、両者を上手に組み合わせて柔軟な対策を練ることが賢い節税となる。