清話会セミナー’13年07月:講演要旨②

【講演名】「生前贈与」から採る賢い相続税対策

2013年7月に清話会にておこないました講演の要旨をまとめました。

生前贈与から考える相続税テクニック

構成:今野靖人(清話会)

早期からの着手が有効な対策を生む

相続税対策の基本は、少しでも早くから着手しておくことだ。時間的な余裕があるほど、より多くの選択肢が得られるからである。そして相続のリーダーシップは遺産を遺す本人が握り、日ごろから的確な財産把握をしておくことが重要だ。

相続対策には節税対策のみならず、納税資金対策および相続人が亡くなった後の遺産争い防止策も含まれる。特に紛争防止は大切で、私の扱う相続事案には、被相続人同士の争いがこじれて10年以上も未解決のままのものもある。その問、遺産は凍結状態になっていて、一切手をつけることができない。そんな事態に陥らないよう、遺産の「奇麗なバトンタッチ」を考えることも相続人の責務と言えるだろう。

財産の把握と評価については、「大体どのくらいある」ではなく、正確に計算しでおかなければならない。産というのは、蓋を開けてみるといろいろなものが出てくる。相続税は亡くなってから10カ月以内に申告しなければならず、1年にも満たない短期間で被相続人が故人の遺遺産の全容をつかむことは難しい。

そこで私が勧めるのは、不動産、預金、有価証券などの財産と、控除される借金や葬儀費用などを細かくリストアップした表を作成し、納税資金の捻出や節税対策、そして誰に何を贈与するのかを多角的に検討することだ。資産の把握と評価は、できれば毎年行いたい。そうした入念な準備こそが、有効な節税対策の第一歩である。

納税資金に充てるのに適しているのは、保険金や死亡退職金だ。保険金は誰が受け取るかが明確で、分割協議事項の対象外となる。亡くなった時点で受取人に支払われ、相続争いの原因にはならないから、これを納税資金とするのが最も合理的である。

遺産分割では、自宅を建てた子に対する資金援助などの特別受益分も考慮される。生前贈与を受けた、いや受けていない、という採め事は大変多いので、親は兄弟の誰にいくら贈与したかを明確にしておかなければならない。被相続人が遺言書で分割法を指定している場合も、最低限の割合である遺留分は法定相続人に相続されることも念頭に置いておきたい。

法定相続人は法律で定められているが、その人数が増えれば基礎控除額も大きくなることから、養子縁組が相続対策にされることもある。これについても、例えば長男の子が親の養子になっていた事実を他の兄弟は知らされていなかったといったトラブルが発生する可能性がある。また、養子とした孫の相続税は2割加算されるので、孫よりも子の配偶者を養子にするほうが有利である。また、売却するかどうかで意見が分かれることが少なくないので、不動産は兄弟で共有をせず、八刀筆にするほうが賢明だ。

ここからは、、相続税の仕組みを利用した具体的な節税対策を見ていこう。まず挙げられるのが、配偶者の税額減税制度を利用する方法だ。配偶者は1億6000万円までの相続税が非課税で、その額か法定相続の控除分のどちらか高いほうを選ぶことができる。だからと言って安易に全額、を配偶者が相続してしまうと、短期間のうちにその人が亡くなった場合、2次相続で結果的に相続税負担が増える場合があるので注意が必要だ。

生命保険にも、法定相続人1人当たり500万円までの非課税枠がある。しかし契約者が被相続人で受取人が配偶者であれば相続税が、契約者が配偶者で受取人が子の場合には贈与税がかかる。契約者が子で受取人も子の場合は一時所得と見なされてメリットが生じるケースもある。

 

保険金の支払いを贈与のようなかたちにすると、それまでの掛け金を引いた額の2分の1が減額されて税金が課せられる。この2分の1というのはかなり大きく、相続税よりも低くなるなら利用する価値がある。

仮に保険の掛け金が毎年100万円であれば、子を契約者かつ受取人とし、暦年贈与を活用しながら支払う方法も有効だ。他にも生命保険には節税のための活用法がいろいろと考えられるので、専門家のアドバイスを受けながら検討して欲しい。

死亡退職金は500万円×法定相続人の数が非課税となる。会社から出される弔慰金も、一般的に最終役員報酬の6カ月分程度が非課税だ。ただし会社側が明確に区分していないと、税務調査に際して弔慰金が死亡退職金に含まれてしまうことがあるので注意したい。

遺産の評価を下げるという対策もある。その評価法は、宅地や山林、田畑など地目別に行う方法と、利用単位ごとに行う方法に大別され、被相続人の利用一体の場合、取得者が同じなら一体評価される。取得者が別なら利用単位ごとに評価され、被相続人の利用が別なら取得者が同じ場合でも利用単位ごとに評価される。

これによって評価額が大きく変わってくるが、税務署との見解の相違も多いので、税理士や不動産鑑定士などの専門家と打ち合わせて事前に入念な検討をしなければならない。

分筆で土地の形状を不正地形に変えて評価を下げる方法もあり、手放すときに一体の土地として売却すれば損失は生じない。

土地の利用方法で評価を下げることも可能だ。例えば990m2で8910万円の土地に賃貸マンションを建てると、その評価額は更地のときの80%ほどになる。同じ敷地内に賃貸マンションの借主とは別の人が利用する月極め駐車場をつくると、評価額はさらに低くなる。この場合はフェンスなどで区切り、マンションと駐車場が別個の物件であることを明確にする必要がある。

戸建住宅の住宅地にある広大地に該当する土地には広大地補正率がかけられ、評価額が大幅に下がる可能性もある。その適用にはさまざまな要件があるので、こちらも専門家への相談が不可欠だ。

平成27年1月以降は小規模宅地等の改正も行われることになっている。住用宅地に係る限度面積が拡大し、居住用と事業用についてはどちらも限度面積一杯まで適用されるようになり、これによっても評価減となる場合がある。